依存症は「問題」ではなく「解決策」だった?自己治療仮説とは

眠る前の不安を紛らわすために飲む。飲んでいる間だけ、仕事の失敗を考えずに済む。こうした経験を理解する視点の一つが、精神科医エドワード・カンツィアンの自己治療仮説だ。
薬物やアルコールの使用を、苦痛への対処として捉える。本人に害が出ていても続けてしまう行動に、それまで果たしていた役割があるのではないか、と考えるための仮説になる。
何を説明する仮説か
1985年の論文は、主にヘロインとコカインへの依存についての臨床観察をもとにしている。1997年の再検討では、物質使用障害の中で、苦痛な感情や自己調整の問題との関係が論じられた。
一時的に楽になる体験があれば、害を知っていても同じ手段に戻りたくなる。その人にとって何が楽になっていたのかを聞くことは、やめにくさを理解する助けになる。
ただし、すべての依存が心の痛みから始まるわけではないし、使う物質からその人の感情を逆算して診断することもできない。ギャンブルなどの行動に当てはめる場合も、元の研究とは範囲が違うことを意識したい。
背景を理解することと、害を止めること
お酒が一時的に不安を和らげていたとしても、安全な治療になるわけではない。睡眠や健康、お金、人との関係に新たな問題が起こり、そのつらさをまた飲酒で紛らわす場合もある。
回復のためには、使うのを減らす・やめる方法を考えると同時に、それまで対処していた困りごとも扱う必要がある。眠れないなら睡眠の相談をする。仕事の負担が大きいなら、負担の調整を考える。飲酒の離脱が心配な場合は、やめ方を医療機関と相談する。
過去のつらい体験が関わる人もいるが、詳しく思い出さなければ回復できない、とは考えなくてよい。安全に話せる範囲を、支援者と確かめながら進められる。
今の生活から考えるためのメモ
原因を探し続けると苦しくなるなら、直近の一回から始められる。飲む前にどんな状況だったか、飲んでいる間は何が変わったか、翌日はどうだったかを書く。
たとえば、不安が一時的に減った一方で、翌朝の欠勤が増えているなら、不安への対処と飲酒の両方が相談の題材になる。具体的な書き方は行動の前後を振り返る記事で紹介している。
一人で整理するのが難しければ、医療者や相談員に話す方法もある。ピアサポートやQuitMateのようなコミュニティで、似た経験に触れることが話し始めるきっかけになる場合もある。
自己治療仮説は、「本当の原因はこれだ」と決めるための答えではない。その行動が何を埋めていたのか、今はどんな助けが必要かを聞くための視点として使いたい。
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